数年前にBL界では「上質な暮らしBL」なるものが流行りました。ここ数年、ファンタジー性が強調されるようなBL(=非日常的なBL)ではなく、どことなく生活感が漂ってくるような作品のニーズが高まっています。そのような中、特に「落ち着きのあるオシャレな生活」を「上質な暮らし」としてBL内で表現する作家さんが続々と登場し、腐女子たちの支持を集めました。今回はそんな「オシャレ感」にスポットを当てた8作品をピックアップ! 筆致やセリフ回し、ストーリー展開など各所でキラリと光るセンスを存分にご堪能ください!!
シンプルな「愛」を味わえる日常BL! 繊細な心情表現に涙
BLといえばロマンチックできらびやかなストーリーの作品が多い中、こちらの作品はリアルな生活の中で自然に芽生える愛が描かれた物語です。小学校の同級生同士が出会うところから物語はスタートするのですが、出会いはまさかのアパートのゴミ捨て場という、現実感たっぷりな場所! 一周回って新しい再会の仕方ですよね(笑) 出会い以外にも、美容師の攻め・杉本の悩みや生活ぶりがかなりリアリティに溢れていて、もしかしたら私たち読者の身の回りにも、こんな出会いが秘められているかも? と想像してしまうほど、親近感があるのが魅力的♡
猫のようにひょうひょうとした受け・妹尾は、掴みどころがない明るい性格。ところが、物語が進んでいくにつれて、妹尾の切なく悲しい過去が明らかになっていきます。そこには中々にヘビーな事情が隠されているのですが、その複雑な辛い過去を一緒に乗り越えてくれる杉本の優しさと、愛情深さが胸を打つ! ドラマチックじゃない、生活感のあふれるリアルな世界だからこそ、本当にシンプルな「愛」が何たるかを考えさせてくれる名作です!
ビターだけどほのかに甘い、タバコ風味なセンチメンタル・ラブ
『キャスター&マイルド』は、タイトル通りタバコがキーポイントの大学生2人の恋を描いた切ない一作!! 漂う気だるさが目を惹く、細い筆記体のレタリングも相まってかなりオシャレな印象の表紙ですよね。 泣きはらした後のように見える赤く染まった目元と鼻が、切なさに拍車をかけています・・・・・・!
美人系ゲイの大学生・慧は、同棲までしていた先生に別れを告げられるも、ずっと先生を思い続ける一途な男の子。そんな慧をずっと好きだった朝日が、慧の傷ついた心を解していきます。
慧と知り合いになりたい朝日は、慧の体から香っていた先生のタバコのにおいから慧が喫煙者だと勘違いし、大学の喫煙室で慧と会うのを待っていたという健気なエピソードが超々胸キュンなんです! 表紙のイラストでも吸っていないように、慧は喫煙者じゃないので、出会うことはなかったのですが・・・・・・。慧に近づきたい、話したいという朝日の強い想いがひしひしと伝わってきますよね!! ひょんなことから始まった慧と朝日の同居生活ですが、朝日は手を出したりせず、献身的な愛で慧を包み込む男前っぷりを発揮します。ワンコ系スパダリの深い愛に魅せられること間違いなしの作品ですよ♡
スイートな香りに幸福感を添えて♡ 胸がぽかぽか温まるBL
オシャレ系BLが好きな方にはもちろん、人見知りな方に必ず読んで頂きたい一作!! というのも『バニラ・ショコラ・シガレット』の主人公・椿は、かな~り人見知りな残念イケメンなんです!
新天地に引っ越してきて、初めて訪れる近所の定食屋。人見知りな椿はなかなか注文することができないのですが、このシーンが人見知りなら「わかるわかる~!」と思わず共感してしまうような一幕なんです! そんなヘタレな椿が、隣の部屋に住むラブラブゲイカップル・豊橋と高槻との交流や、コミュ強な職場の先輩・我妻との親密な関係を通して、徐々に徐々に心を開いていきます。自分の殻に閉じこもりがちだった椿を、優しく外の世界へ連れ出してくれる温かい人々にじんわり感動し、成長していく椿にほっこり母性を刺激されます・・・・・・♡ 椿の我妻への想いが恋だと気づく場面で、「キスしたい」や「セックスしたい」ではなく、「手をつなぎたい」と思う椿のかわいさもたまりません!!
恋だけじゃなく人間愛もたっぷり堪能できるほのぼのかわいいBL。癒しのひと時にいかがでしょうか!
かなりスパイシーでクセになる!! シネマティック群像劇
風俗店「サーカス」が舞台の、アンダーグラウンドかつ背徳的な異色作『Loved Circus』。人生のどん底に落ちたサラリーマン・ケイが自殺に失敗し、なんやかんやでゲイ向け風俗店で働くようになるところから物語はスタートします。あらすじだけ見ると殺伐として、絶望感溢れる印象ですよね。ところがどっこい、本作はそれだけではありません!
ケイを指名したお客さんの要望は「誘拐された美少年を犯す」というプレイ。しかし、美少年役(お客さん)がゴリゴリのおっさんで・・・・・・!? 変質的なお客さんたちの性癖に、思わず笑ってしまうこと間違いなし(笑) 暗いバックグラウンドも、自然に明るく読めるエッセンスが散りばめられています!!
そんなギャグ要素も兼ね備えながら、ストーリーのディープさも天下一品なのが本作の魅力です! 稼ぎ頭の美形ボーイ・シロが「セックス」以外の人間関係の築き方を知らず、ケイとの交流を経て「セックス」以外の生き方を見出していく姿は、涙なしには読めない・・・・・・! 他の「サーカス」従業員の恋と未来も存分に味わえる、人生のどん底から救いまでが一冊に凝縮された、映画のように濃密な名作です!
誰でもいい?それとも・・・ 秘密を共有する大人たちの甘辛ラブ
まずは表紙に注目! 黄色の背景に目がいきがちですが、敢えてキャラクターをモノクロで描くセンスよ・・・・・・。これは良作間違いなし!
受の佐久間は、スマートで社内からの人望も厚いエリートサラリーマン。彼のヒミツを部下・滝本が知ってしまうところから物語はスタート! 気になるヒミツとは、ズバリ極度の怖がりであるということ! 暗所でパニックを起こす、ひとりで眠れないどころか、入浴すら誰かが傍にいないとできない・・・・・・。一見単なる怖がりに見えますが、実はそこには過去のトラウマが絡んでいて・・・・・・。ひたすら「佐久間課長かわいすぎ!」とニヨニヨできるのは物語中盤まで。佐久間の過去に関する核心的な部分に至ると雰囲気は一変、ダークなものになります。さらに謎の隣人・岩瀬の登場により散々振り回されて迷惑していた滝本の心情にも変化が!? 勘違いさせるような上司の言動に、少しずつ余裕をなくしていく年下部下・・・・・・イイですねぇ♡ 岩瀬と佐久間の意外な関係性もスタッ腐の性癖ドンピシャでした。
エリートが見せる甘えんぼうな一面や、面倒がっていた部下がデレる瞬間などなど見どころたっぷりの本作。読む際は「明るいところ」でぜひ♪
女子視点BL!何もかもが一緒、なのに「私」は選ばれない
BLに女子は必要か? 腐女子の中でも意見が分かれるこのテーマを斬新な切り口で描くのが本作『ナチュラチュラリィ』。BL内の女子にスポットを当てた表題作を中心とする短編集です。女子目線で描いたBLとして話題になりましたね。
双子の兄妹と、兄の方を好きになった男。何をするにもいつも一緒、ふたりで歩むのが当たり前だった双子の世界に、たったひとり何の変哲もない男が加わることでどうしてこんなにも苦しく切ないものになるのでしょう・・・・・・。高校生にもなってもべったりな双子を奇異の目で見る人間が多い中、この男・今池だけはふたりの世界を尊重してくれる。なのに、彼が愛し、最後に選ぶのは自分ではなく兄──。「顕くんがいなかったらきっと好きになってた」という今池の言葉の残酷さ!! このような状況を「女」として「妹」としてどう捉えればいいのか。繊細な気持ちを市川先生が本当に美しく描いています。かなの「全部一緒だった」というセリフの奥深さに目頭が熱くなること必至です。
BLなのに、腐女子なのに!! と、心が掻き乱される新感覚BL。未体験の方はこの機会にどうぞ。
年上お兄さんでDT卒業!カラダから始まるピュアBL♡
カラダの関係から始まるのにピュア? そう思った方、とにかく読んでみて下さい。表紙のオシャンティーさからは想像できないほどに攻のピュアっぷりがバーストしている作品なんです!
モテたい童貞・佐野とイケメンメガネ・藤田。佐野に自信をつけさせるべく、モテの師匠・藤田は「自分とのセックス」というトンデモ提案をかまします。「俺で童貞切ってみない?」に始まり、あれよあれよという間にファイト一発(笑) そこからセフレの関係になるのですが、初めはDTらしく赤面するばかりだった佐野が回数をこなすにつれて男らしくなっていくさまに年下攻のポテンシャルを感じました♪ 一方で、いつ終わるとも知れない関係に寂しさを覚えたり、徐々に体だけでなく心までも欲するようになってしまう過程を、恋に不慣れな高校生らしくまっすぐに表現してくれる佐野。そして、色っぽくて手慣れた雰囲気を醸す藤田も、実は本音を表現するのがヘタクソだったりと、大人になりきれない大学生らしさが胸キュンに拍車をかけます♡
「これは恋なの!? いや、恋だろ!!」そんな展開がお好きな方にはビビッと刺さること請け合いです。何回も読み返して可愛さを噛み締めてみてください。
不誠実なジェントルマン!?ズルい大人と学生の爽快アバンチュール
舞台はアメリカ。医学生と妻子持ち教授の禁断の恋・・・・・・と聞くと、何だか背徳的な香りがしますよね? 確かにコチラ、不倫の話です(笑) しかし昼ドラ的なドロドロさはなく、アメリカらしいカラッとしたテイストで終始物語は展開します。
そんな本作の魅力は何と言っても個性溢れるキャラクターたち。特に攻のポールは、妻子持ちのくせに遊びまくっている(=すぐ浮気する)クズなのですが、ひとつひとつの言動が腹立つほどにスマートでかっこいい。にも関わらず薄毛を気にするチャーミングさも兼ね備えていて・・・・・・。不誠実なのに憎めない、そんな魅力を持つイケオジなのです。現役医学生のジョナサンが何だかんだと言いつつも惹かれてしまうのも頷けます。また、ポールの過去話も胸キュン必至!! 学生時代の恋人との色っぽくもほろ苦いエピソード、そしてそれを思い出したポールの涙に、不覚にもこちらまで涙腺が緩んでしまいました。こういうギャップを出してくるなんて本当にズルい男です。
実は意外とエグい話にも関わらず、コミカルで爽快感さえ覚える・・・・・・これこそが松尾マアタ流のおしゃれBL!! 海外モノに抵抗がある人にも自信を持って薦められる一作です♪
こんなにオシャレ作品に囲まれて良いのだろうか・・・・・・。思わずため息が零れるほどにどの作品も魅力的でしたね! オシャレの定義はなかなか難しいところですが、やはり作品そのものの空気感が違うように思えます。そしてどの作品も表紙がスタイリッシュ! 今回ご紹介した作品がセンス良く並んだ本棚をバックに優雅にコーヒーを飲んでみたい・・・・・・・。そんな気持ちになるスタッ腐なのでした(笑)